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「雲雀くん、好きですよ」
クフフ、と目障りの塊が笑う。
その度に不思議な、葉っぱのような髪がふわふわ揺れる。
「雲雀くん、好きですよ」
口角を上げ、にやにやした表情のままの唇は、また。
「雲雀くん、好きです。他の何より」
(あぁ、五月蝿い)
雲雀は何か言い返したり、実力行使したりはしない。それがかえって逆効果だと彼は知っているから。
だから、極力無視をする。
(解ったからいい加減黙ればいいのに)
「ねぇ、雲雀くん」
(まだ言う気?)
骸は風紀関係の書類が積まれたデスクに頬杖をついて書類の上を走るペンの先を目で追いながら、間抜けに欠伸をする。
そうして、視線はペン先のまま、さもつまらなさそうに口を開き続きを紡いだ。
「僕を殺すのは君ですからね」
あんまりにも突拍子なく言われたので、流石の雲雀もこれには顔を上げた。
なにしろうんざりするほど愛の言葉を囁かれた後なのだから。
「馬鹿じゃないの?」
怪訝そうな顔をする雲雀をよそに骸はまたクフフと笑う。オッドアイは雲雀をしっかり捕らえている。
「雲雀くん、大好きです。愛してます。世界中で一番。だから、素敵に僕を殺して下さいね」
呆れて溜め息も出ない、とばかりに骸から視線をそらす雲雀の頬に柔らかいものが触れる。
「愛する君の手でぐちゃぐちゃの滅茶苦茶にされたら、君にこうやってキスしてもらいたいんです」
骸はデスクに両手をついて身を乗り出し、またクフフと笑う。
狂ったようにふざけた他殺願望を語る男に雲雀は一つ、溜め息をついた。
「馬鹿なこと言ってないで家に帰ってよ。君が死んだ後なんて、君は解りっこないでしょ」
再び仕事を再開する雲雀は自分に構ってくれないことを察したのか骸はドアノブに手をかけ、振り返って雲雀に手を振った。
「雲雀くん、いってきます」
「…ここは君の家じゃない。二度と帰ってこなくていいから」
「いってらっしゃいのキスが欲しいんですよ」
むくれた骸は拗ねた色を言葉に滲ませながらドアを開けて廊下へ出ていく。
出ていったと思ったら少し開けたドアから顔だけ出して、また笑顔を作った。
「そうそう。僕の帰る場所は雲雀くんですから」
そうして、今度こそ奇妙な髪型の頭を引っ込めてドアを閉めて、出かけていった。
(そうして僕は彼に見送られて輪廻の旅へ逝くのだ)
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