5/6
前へ
/41ページ
次へ
手摺を越えてみた。飛び降りようとしたわけじゃない。一歩踏み出せば、確実に下へと落ちるけど。 今日はまだ彼はいない。来るかも知れないが、安全な場所に戻る気はなかった。 眼を閉じる。柔らかい風が吹いて、髪と制服が揺れる。 もしこのままバランスを崩して、あたしの全てが終わることになったとしても、きっと何の抵抗もなくあたしはそれを受け入れるだろう。 坤輿(こんよ)に対する未練なんてものは所有していない。寧(むし)ろ早く消えたいと思う。 「死ぬの?」 耳が声を捉えたのと同時に腕を掴まれた感触に眼を開けた。 僅かに後方に首を向けると、いつもと変わらない表情で彼があたしの腕に手をかけていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加