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手摺を越えてみた。飛び降りようとしたわけじゃない。一歩踏み出せば、確実に下へと落ちるけど。
今日はまだ彼はいない。来るかも知れないが、安全な場所に戻る気はなかった。
眼を閉じる。柔らかい風が吹いて、髪と制服が揺れる。
もしこのままバランスを崩して、あたしの全てが終わることになったとしても、きっと何の抵抗もなくあたしはそれを受け入れるだろう。
坤輿(こんよ)に対する未練なんてものは所有していない。寧(むし)ろ早く消えたいと思う。
「死ぬの?」
耳が声を捉えたのと同時に腕を掴まれた感触に眼を開けた。
僅かに後方に首を向けると、いつもと変わらない表情で彼があたしの腕に手をかけていた。
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