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柔らかい陽射しが広い緑の庭に降り注ぐ。
石と岩の縁取りの池には、鯉や金魚が優雅に泳ぎ、水面に緩やかな波紋を作る。
見事に手入れの行き届いた庭。
それを縁側に座り眺める者もまた、威厳と見事な召し物を纏っている。
「平和なことは良き事かな」
のほほんとぼやく彼は、この國を治める皇だ。
名を典智(てんち)、善政と高い知性で人々からは『愛王』と親しまれている。
「お主らも部屋で昼寝などせず外で遊んだらどうだ」
典智は後ろを見るように体を捻り、畳の上に寝転ぶ少年と、白銀の狼に向けて声を掛けた。
「嶄(ぜん)もそろそろ戻る事だろうに」
寝転んでいた黒髪の少年は気怠げに体を起こすと、隣で丸まった狼に視線を落とす。
すーすーと気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。
「白銀(しろがね)…起きろ。戻ってるぞ」
腹の辺りをわしゃわしゃと撫でながら、少年は狼を起こす。
「くぅーん…」と抜けるような声で鳴くと、狼はゆっくりと瞼を上げた。
欠伸を一つ零すと、体を伸ばして再び伏せった。
「おやつー」
狼は、否、妖狼はそう口を開き、長くふさふさした尻尾をぱたぱたさせた。
「嶄が買いに…ああ、ちょうど戻って来た」
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