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そう言った典智の視線の先には、静かに廊下を歩いて来る少年の姿。
赤い長布を頭に巻いたその少年は、典智の前で一度止まり跪ずく。
「ただ今戻りました、天皇」
「ああ、お帰り。御苦労だったな」
「おー、お帰り嶄」
その背後で、少年が白銀と呼ばれた狼を抱えて引きずりながら二人のもとに歩み寄る。
「嶄ちゃんお団子は~」
狼が鳴くと、嶄と呼ばれた少年は手にしていた包みを取り出した。
「白銀様の好きな餡団子ですよ」
にっこりと笑うと包みを開ける。
今にも飛び付いていきそうな、白銀と呼ばれた狼を手で制し、少年は背後を指差す。
「食べる前に人化しろ」
「えーいいじゃない」
「そのまま食べると毛が汚れるだろうが」
「嶄、白銀皇に衣装を」
「御意に」
典智の言葉に嶄は、有無を言わさず白銀を連れ立って部屋へと消えて行く。
それを見送り、溜息を吐いた少年に典智が苦笑する。
「相変わらずよの、黒槌(くろつち)」
黒槌と呼ばれた少年は、典智の横に腰を下ろすと、嶄の買ってきた団子の包みを手に取る。
白銀に差し出した包みとは別の物だ。
「あれであんたと同じ立場なんて呆れるっての」
「ははは、そう申してやるな」
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