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脇腹を刺された。
驚愕と苦痛の中で倒れた僕の体に、相手はまた剣を突き立てた。
右足。
刃は突き刺さり、貫通。
息が荒い敵は、僕が呻き少量吐血する様子を睨みつけながら、体を貫く剣を抜いた。刀身が血に纏われている、
何が足りないのだろう、もう直ぐ僕は死ぬというのに。死ぬというのに、目前の敵は飽くこと無く武器を振りかざす。
左手。
の二の腕を掠め、地面に傷をつけた。
仰向けの僕から見える敵の表情は、怒り。いや、もしかしたら悲しみ。歓喜。わからない、人を見かけで判断してはいけない。
不明瞭な感情を抱える顔の向こうには、戦場の青空を飛ぶ暗い赤の竜が、地で争う人に、区別無く橙の火炎を吐いていた。敵の竜か味方の竜かは知らない。
どうせ僕はもう直ぐ死ぬ。死ぬというのに、激しい痛みは脇腹と右足、それと僕を躊躇無く蹂躙した。
胸部。
にも惜しげなく魔の手を伸ばした。
苦しくて辛くて今にも泣きそうだが、涙の変わりの液体は、口から傷口から次々と溢れて、嗚咽はうめき声が代役を果たした。
早く死ねよ、と敵は言う。
ああ死ぬよ、と僕は思う。
死ぬよ。
死ぬ。
死ぬ
、のか。
死ぬんだ。
――そう実感した途端、家族を思い出した。友を思い出した。思い出がめぐった。
優しい両親。
可愛い妹、アリシア。
幼なじみのシグゥ。
親友の気弱なダニロ。
流れていく血とともに、
麻痺していく脳とともに、
忘れていくその他大勢。
幸せ、悲しみ、喜び、悩み、も、
まるで走馬灯のように、
違う、走馬灯なんかじゃない。
夢だ。
これは夢。
夢。
夢?
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