そうして彼らは戦場で夢を見る。

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  「変な夢でも見てたのか?」  それは敵の声ではなかった。火を噴く竜など飛んでおらず、天井が空と僕を遮っていた。  僕は簡素な二段ベッド下で寝ころんでいて、同僚のクレースが上段から覗き込み笑っている。  時計を見た。早朝。  どうやら本当に夢を見ていたようだ。 「うなされてたぜ」 「戦場で、殺される夢を見た」 「気の早いことだ。俺たちが戦場に行くのは一週間後だというのに」 「僕はせっかちだから」 「せっかちは死に急ぐのかい?」  何にしろ、良くない夢を見た。  内容はあまり覚えてないが、自分が死ぬ夢なんて初めてだ。不快なものだった。  水をコップ一杯欲しい。 「アリシアって誰だ」クレースが言う。彼は二段ベッドにかけてある梯子を降りて僕の前に立った。 「え?」被っていたシーツを退かして、僕はベッドの縁に座る。 「寝言で呟いてたぜ。アリシアだとかシグゥだとか。アリシアってのは彼女か?」 「違うよ」 「幼なじみとか姉妹か」 「知らない。近所にそんな子いたかもね」 「じゃあ何でアリシアなんて呟くんだよ」 「わからないよ。君が聞き間違えたんじゃない?」  アリシアなんて知らない。シグゥとやらも知らない。  僕は立ち上がった。水を飲むためだ。コップ一杯の水というのは、僕の様々な感情を鎮めるのに大いに役立つ。 「俺も、嫌な夢を見たんだ」 「へぇ、死ぬ夢?」 「そうだ」  不意に、手に重量感を感じた。何だろう? 「お前に殺される夢を見た。 その剣で、 この胸を貫いたんだ」  クレースが己の心臓がある場所へ触れると、そこがじんわりと血で滲んだ。弧を描く口からも赤い液体が伝っている。  驚いて、僕は持っていた剣でクレースの腹を刺した。 「そう、その剣でだ」  一度クレースを殺した剣で、もう一度彼を殺した。 「夢みたいだろう?」  まさにその通りだと思った。  その通りであってほしいと思った。  
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