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カフェ「Moon」で、ロイヤル・ミルクティーを飲みながら私は低く呟いた。
「ぁー…癒されるぅ」
毎週の様に、そう呟くのは会社で失敗する事が多いからで、新人ゆえの失敗とは解って居ても入社して2ヶ月以上は経って居る。
失敗する度に、上司に怒られれば精神的に落ち込むもの。
けれど、今すぐ他の仕事に変えられないのは、生きて行く為にはお金が必要で、仕事をしなければ生活が出来無いからだ。
実にシビアで、現実過ぎる夢の無い考え…
けれど、それが現実。
生きて行く為の代償は、仕事をする事なのだから。
それで得た収入が有るからこそ、週1はカフェで甘い一時を過ごせるのだ。
無理やり自分自身を納得させながら、ロイヤル・ミルクティーを半分ほど胃に収めた私のテーブルに、料理が運ばれてきた。
「お待たせ致しました。シーフードのペペロンチーニのパスタです」
店員さんは、そう言ってパスタの乗った皿を私の前に置いてくれる。
このカフェは、紅茶専門店だが、軽食としてパスタやホット・サンド等も有って、私は決まって初めにロイヤル・ミルクティーを飲みながら食事をして、デザートと一緒に、もう一杯のロイヤル・ミルクティーを飲むのが金曜の日課になって居た。
お店の客の割合は、女の子が多い。
何故ならホール・スタッフの店員3人とも大学生で背が高く、爽やか系。
店長権シェフの笹本さんは大人の魅力と甘いマスクに料理の腕の良さが評判で、厨房のアシスタントの2人の調理師もクールで顔が良いとなれば、自然と噂が広まって人気店になるのも当然だろう。
そんな事を思いながらも、運ばれてきたシーフードのパスタを目の前にして、私はパスタを一口、頬張った。
ピリ辛な赤唐辛子とニンニクの食欲をそそる味。
―あー美味しい~やっぱり、このシーフードのパスタが一番好きだわ
食べながら、そう思って居ると珍しく笹本さんが私のテーブルにやって来た。
手には、デザートの乗った皿を乗せて居る。
不思議そうな表情を向ける私に、笹本さんは付け加えるように言ってくれた。
「実は今度、カフェで新メニューを出そうと思って居るんですが…村上さん。試食してくれませんか?」
「え…あの、私で良いんですか…?」
戸惑いながら、私が言うと笹本さんの笑顔が止めとばかりに追加された。
「勿論です。村上さんは、カフェの常連ですし貴女の素直な感想を教えてくれると助かります」
笑顔で、それ言われてしまっては、返す言葉も見つからないばかりか、彼の言葉に心臓がドクン!と音を立てる。
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