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熱はあがったままだったので服をありたけ着込み、帰ってくるときのために暖房をつけたままにし、アパートを出た。
そとは雨だった。
家でじっとしているだけのときにはまるでわからなかった、雨のにおいに木や土のにおいにぼんやりと感動しながら、かさをさした。
とぼとぼと歩いていると自転車で、わあわあ言いながら学生がふたり、通っていった。
いつもしょんぼりと流れている川は俄然はりきって、ふっくらと水嵩をまして光っていた。
少しおおきな道路をびゅんびゅんと車は走り、水煙りで世界は薄霞のかかったようになっていた。
いきいきとしている日常にいきなり飛び込んでしまった私は、やっぱり置いていかれた気分、外国に旅行にきているような、お客さまのような気分で、それら全体の雰囲気を眺めた。
やっとで辿り着いたコンビニは、いつも使っているのに馴染みという気はしなくて、どこからんぼうに白く、『お粥だけ買って、はやく帰ろう……』とした瞬間、
「ねえ、あなた」
ふたり組のおばあちゃんに笑顔で話し掛けられてしまった。
「こんばんわ」
それは、うちの職場、デイサービスでお世話しているふたりの利用者さんだった。
「おひさしぶりです」
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