小学生?大丈夫よ、うちでは小学生も雇うから。

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「ではこの問題が分かる人」 「はい!」 「はい、斉藤和幸くん」 「3分の2です」 「正解」 「「「おぉ~~」」」 (カズくんはスゴいなぁ。難しい問題も一瞬で解いちゃう。僕なんかちゃんと計算しなくちゃ分からないのに。) 睦月は和幸を見て拍手をする生徒の一人だった。 休み時間。 「ムツキ!昨日の国語の作文見せっこしようぜ!」 和幸が睦月に言った。 「僕、作文下手くそだからいやだよ……」 「ダイジョブだって、お前見た目より作文の才能あるぜ!」 和幸は睦月の数少ない友だちの中でも一番仲の良い友だちだった。 「そ、そうかなぁ」 「そうだって!ほら、オレの作文。お前のは?」 「…これ」 「よし、見せてみろ」 作文の内容は自分の将来の夢についてだった。 「ふんふん。ふ~ん。お前将来平和な家族を作るのが夢なのか」 「や、やっぱり変だよね……。カズくんみたいにカッコいいパイロットにすればよかった」 「そんなことないとおもうぜ!お前は“家族”になるのが夢なんだろ?」 睦月はハッとした。そして頷く。 「うん!」 「立派な夢じゃねーか!」 「そ、そうかな?」 「あぁ!」 睦月は和幸の言葉に励まされ、自分の作文を握りしめた。 (僕の夢は“家族”になること。家族のいない、僕のちゃんとした夢なんだ。) 睦月には、物心ついたときには両親がいなかった。気付いた時には孤児院にいて、同じ境遇の仲間と暮らしていた。みんなみたいに好きな洋服は買えないし、おいしいご飯をお腹いっぱい食べることもできないし、お小遣いだって普通の子よりずっと少ない。 でも睦月はそんな自分を不幸だとは思わなかった。周りにはいつでも自分と同じ境遇の子どもたちがいたし、学校で多少いじめにあっても和幸みたいな良い友だちは何人もできた。給食は一度だって残したことはないし、勉強は楽しいし、体育の授業も大好きだった。 「カズくん、パイロットになれるといいね」 「おう!絶対なってやるぜ。そしたらムツキ、お前を乗せて飛んでやるからな」 「はは!ありがとう」 チャイムが鳴った。 「今週オレらトイレ掃除かよォー。おい親無し!お前便器掃除やれよ」 「…………」 親無し、とは睦月の別称だった。いじめっこたちは睦月をそう呼ぶ。和幸はそれを絶対に許さなかったが、今この場に和幸はいない。
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