3330人が本棚に入れています
本棚に追加
「便器掃除終わったらはき掃除もやっとけよ!」
「お前が手抜くとオレらまで怒られンだからなあ!」
「…………うん……」
「よし、帰ろうぜー!」
「今日何して遊ぶー?」
子どもたちの声は遠ざかり、やがて聞こえなくなった。睦月の箒を持つ手が悔しくて震えた。
(どうして僕はいつもいいなりになっちゃうんだろう…!)
睦月は目に涙をいっぱいにためてはき掃除をした。でも決して泣かなかった。
睦月が掃除を終えて教室に戻ると、教室には誰もいなくなっていた。放課後の教室に睦月はぽつんと佇み、おさがりでボロボロのランドセルを眺めていた。
(帰らなくちゃ。)
睦月はランドセルを背負うと教室を出た。
睦月がグランドを横切って校門に向かっていた時だった。
「やっと出てきたわ!確保!!」
「「了解!!」」
「!? うわぁあもがっ!!」
睦月は黒スーツの謎の男たちに捕まってしまった。元々小柄な睦月は、大の大人2人で抱えるには充分すぎた。
睦月は口を塞がれ叫ぶことも出来ずに黒塗りの高級そうな車に放り込まれた。
「わぁっ!」
「出して」
「はい!」
「え?えぇ…?」
睦月はキョロキョロと周りを見回した。車の中は座席が向かい合っていて、運転席の方は見えなくなっていた。睦月の正面には美人な女の人が足を組んで座っていた。
睦月は女の人に聞いてみる。
「あの……僕を誘拐しても何の価値もありませんよ」
睦月が震える声でそう言うと、女の人は見た目通りの綺麗な声でオホホと笑った。
「柊睦月くん」
「!」
「あなたは選ばれたの」
「選ばれた…?」
「そうよ。これからあなたには日給20万の仕事をこなしてもらいたいのだけれど、どうする?」
「日給20万!?」
(に、20万円あったら孤児院を出て一人暮らしができる…!しかもそれが日給!?どんハードな仕事なんだろう……。)
「あ、あの、あなたのお名前は……?」
「あぁ、申し遅れて申し訳ないわ。私は華卿院桜子。とある会社の社長秘書をしているの」
「は、はぁ……」
「ピンとこない顔をしてるわね、睦月くん。あなたにこれから頼もうとしているのはあるお屋敷の単純なハウスキーパーのお仕事よ」
「ハウスキーパー?」
「そう。掃除や洗濯などの単純作業。それを日給20万でやって欲しいの。あぁ、心配しなくていいわ、学校は今まで通り行って構わないから」
最初のコメントを投稿しよう!