きりたんぽ鍋

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「東京さ行ったって聞いでだけど、たまに帰ってくるなだが?」   「三年ぶりだよ。仕事、忙しくてな……久々に休み取れたから、たまには来ないとなってさ。ばあちゃん死んでから、親父一人だし」   「んだよなぁ。こっちゃ住んでる同級生なば、ほどんと居ねぇがらさ。仕事なぁ無えして、みんな仙台が東京さ行った」    町からは、人が消えていた。  俺が通っていた学校も五年前に廃校になり、今や小中統合された学校が町に一つだけになってしまった。   「んじゃ、金なばいっぺぇ稼いでるんだべ? 大学さも行ってだし、頭もえがったべ」   「いっぱいかぁ……そりゃ、不自由ないくらいには稼いでるさ」   「なら、えがったなぁ」    その話を聞くと、俺は溜息をついた。  田舎の人たちと話をすると、必ずその話を持ち出してくるから。   「でもな、疲れるよ。毎日毎日、残業ばっかりでさ……ゆっくりもできないし、仕事は減らないし。なんだか、仕事するために生きてる感じがしてさ」    それが、今回田舎に来た理由だった。  久々の長期連休だったから、海外旅行に行こうという話もあった。  でも、俺はここを選んだ。    何も無いこの町には、何も気遣う必要が無かった。  情報やモノに溢れかえり、溺れそうで息苦しい都会とは違って。   「んだがんだが。都会から帰えってくる人は、みんなそう言うなだ。んだがら、ゆっくりして帰ぇれ」    それは、たまに帰ってきては何も無いことを理由に飽きて帰っていく、都会人に対する皮肉だった。  俺はその言葉に対して、何も言い返せなかった。  この何も無い土地に幸せを感じていた幼い頃とは、俺は変わってしまっていたのだから。    でも―――   「あーっ! 着いたーっ!」    芽吹が、見覚えのある景色に声を上げた。  雪が積もってからここに来るのは、芽吹は初めてだった。  でも、色は緑から白に変わっても、この家はそのままだった。   「ゆっくりしたら、飲みにでも行ぐべ。みんなどご、連れで」   「わがった。また、今度な……まっちゃん」    思わず、訛った。  それは、ごく自然に出た言葉だった。  俺の言葉に、かっちゃんの顔が緩んでいた。
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