きりたんぽ鍋

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 こたつに、首だけ外さ出すようにすっぽりと入る。  父ちゃんがこの格好を見ると『亀さなったべ。亀小僧は皆して飯食うまで、そうしてるなだな』と言ってくる。  でもこの暖けぇ感覚は、やめれなかった。    今年の夏にかやぶき屋根を、トタン屋根さ変えた。  隣の大介ん家のじいちゃんが去年死んじゃったから、もうかやぶきを変えてくれる人がいなかった。  台風が来ても雨漏りはしなくなったけど、この冬は去年よりも寒く感じた。   「政夫、ちょっと手伝ってくれねべが?」   「えー、今やっと暖けぐなってきたどころなんさ……」   「んじゃ、後がらでもいなだ。今日なばな、市兵衛さん家がら鳥っこ貰ってきたがら、きりたんぽなしようど思ってるがら」   「あ、きりたんぽ? んじゃ後で手伝うがら、たんぽ作らせで!」   「ああ、んだが。わがった、わがった」    こたつの外は寒かったけど、それでもきりたんぽ鍋という御馳走の話を聞くと、手伝ってでも早く食べたかった。  でもそのためには、もっと体さこたつの暖かさを溜めておかなければいけなかった。    ばあちゃんが、絞めたばっかりの地鶏を手さ持ってた。  その地鶏を台所さ持ってくと、台所からは包丁を叩く『ダンダン』という音が聞けてきた。  ご飯が炊き上がった匂いがして、たまらなかった。    時計を見ると、四時半さなるところだった。  今年は本当に大雪で、窓のほとんどが雪の壁で覆われてしまっていた。  しかもこの吹雪もあってか、家の中は薄気味悪いくらいに暗かった。  その中で囲炉裏の灯りは眩しいくらいに光って、かけている鍋のお湯が煮立つ音がでっかく聞こえた。   「ばあちゃん、ばあちゃん。おら、手伝おうが? もう大丈夫だ」   「あら、んだが。したらばな、ご飯なば炊げてるべがら、それどご居間さ持ってってぇ、かき混ぜでおいでけれ」   「あー、んだが! わがった」    心の中で「いっせーのせ」と叫んだ後に飛び跳ねると、ばあちゃんのいる台所さ走った。  居間から台所さ行くとすぐ、針でじくじくと刺されたような寒さがおらを包んだ。  ふとばあちゃんの手元を見ると、既に骨と肉さ分けられた地鶏が、皿さ盛られていた。  それを見てもっと早く食べたいと思うと、腹がぐーっと縮まった。  おらは釜を手さ持つと、少しでも暖かい居間へと急いだ。
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