きりたんぽ鍋

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 出稼ぎさ行っている父ちゃんの口調に、向こうの言葉が混じっていた。  いつもの父ちゃんの声なのに、なんだか父ちゃんじゃない気がして、寂しくなった。  でも『んだが』という言葉さ、少しだけ安心した。   『今日の晩飯はなんだ? いいの食ってるか?』   「今日な、市兵衛さんちから鳥っこもらったらしくてな、きりたんぽさしてだな。うんめそだど」    受話器を耳さ当てたまま顔をばあちゃんの方さ向くと、たんぽを囲炉裏端から取り出しているところだった。  ちょうどよくに焼きあがったたんぽは、見るからに美味しそうだった。   『それなば、いいな。父ちゃんにも、少し残しておいてけれ』   「あはは、んだな。んでもな、もっとうんめぇな作って待ってるがら。来るどきは教ぇれな」   『んん、わかった……あ、電話切れる所だ。じゃあ、まだな』   「んじゃ、したらな」    受話器を置くと、キーンという音が聞こえた。  父ちゃんは、この雪がとける頃には帰ってくるんだろうか。  おらは母ちゃんのことはよくわかんねえし、父ちゃんとばあちゃんしか知らなかったから。    たんぽを切って、きりたんぽにする。  かごさ用意してあった糸こんにゃくと、まいたけ、ななめさ切ったねぎを入れる。  電話をしている間に入れたたまり醤油が煮え始め、醤油のいい匂いがしてきた。   「父ちゃん、なんて言ってだが?」   「父ちゃんもな、きりたんぽ食いでえど。んだがらな、このきりたんぽ取っておいでけれど」   「それなば、えがった。んだが、んだが」    最後にきりたんぽを入れ、鍋さふたをした。  あとは一煮立ちするのを待つだけだった。
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