きりたんぽ鍋

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「凄い雪ねぇ、お父さん来てるかしら?」    駅を出た瞬間、雪と風が三人を襲った。  さっきまで元気だった芽吹も、急にしおらしくなってしまった。   「さっき電話した時は、そろそろ向かうって言ってたんだけどなぁ」   「時刻表、見間違えてる訳じゃないわよね?」    次の電車までは、一時間半もある。  さすがにこの時間の電車を間違えるとは、思えなかった。  きっと、親父の悪い癖が出たんだろう。   「瑛美子は芽吹連れて、待合室に入ってろよ。携帯……なんか電波悪くて、公衆電話行ってくるから」   「そう? じゃあ、待ってるから……あっち行ってましょ? 芽吹」    芽吹は機嫌が直ったように『うん!』と返事をすると、瑛美子と一緒に駅舎へ戻った。  俺は駅の前にあった公衆電話に駆け寄ると、財布から十円玉を三枚取り出した。   「使えるよな? この電話」    よく見ると、赤いランプが薄く光っているのがわかった。  なら、大丈夫ということだな。  受話器を上げて十円玉を入れると、受話器から『ツ……ツツ―――』と音がした。  電話番号に合わせてボタンを押すと、呼び出し音が聞こえた。   「まったく、早く出ろよな……って、あっ。 もしもし、親父?」    電話が、繋がった。  ということは、まだ親父は家にいるということだった。   『あ、ああ……なんだ、政夫だが?』   「なんだじゃないって。もう着いたんだけど、駅にいないからどうしたのかな? と思ってさ」   『ああー、んだがんだが。今日なばな、栄助さん家からごんぼ貰ったがらな。今、灰汁取りしてだなだ。きりたんぽ、作るって言ってだべ?』   「そりゃわかるけどさぁ。駅まで迎えに来るって言ってたから、今待ってんだよ……で、来ないんだろ?」   『あ゛ーんだな。ハイヤー捕まえで、それで来い。家で、待ってるがら』   「はいはい、了解しましたよ。んじゃ、また後でな」    そう言って、俺は受話器を置いた。  まぁ、親父が迎えに来ないってのも、予想はしていた。    ここに来るのも、久々だからな。  きっと瑛美子や、大きくなった芽吹と顔を合わせるのが、気恥ずかしいんだろう。    俺はお釣りの十円を公衆電話から受け取ると、瑛美子と芽吹の待つ駅舎へと向かった。
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