すてひと?

5/6
前へ
/110ページ
次へ
「母さん、俺はいいよ。母さんに楽させてあげられるなら。」 ……………そして涼は夢を見なくなった。涼と呼ばれなくなった。 「佐倉社長の息子」 それが涼についた新しい記号だった。 買い与えられた黒いBMWのシートに身を沈める。 エンジンをかけると、体がオーディオから発する音に包まれた。 佐倉はこの時間が一番好きだった。 父が、マンションビルの権利をくれた。 そこの一番広い部屋に住み、他の家からの家賃収入は生活費にあてている。 サラリーマンの薄給なんか必要ないのだ。 減らない口座残高。だけど心は晴れなかった。 …心を開ける友人がいない。 社長の息子がこんなに不幸なんて。佐倉は自嘲気味に笑った。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加