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「母さん、俺はいいよ。母さんに楽させてあげられるなら。」
……………そして涼は夢を見なくなった。涼と呼ばれなくなった。
「佐倉社長の息子」
それが涼についた新しい記号だった。
買い与えられた黒いBMWのシートに身を沈める。
エンジンをかけると、体がオーディオから発する音に包まれた。
佐倉はこの時間が一番好きだった。
父が、マンションビルの権利をくれた。
そこの一番広い部屋に住み、他の家からの家賃収入は生活費にあてている。
サラリーマンの薄給なんか必要ないのだ。
減らない口座残高。だけど心は晴れなかった。
…心を開ける友人がいない。
社長の息子がこんなに不幸なんて。佐倉は自嘲気味に笑った。
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