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しばらく、あてもなく車を走らせていた。
色目を使う女性社員だとか、嫉妬を向ける年配社員に嫌気がさしたのだ。
佐倉家に跡取りは自分以外に居ない。
つまりいっそ自分が自殺してしまえばそれは大変な復讐になるんじゃないか?
なんて、出来もしないことばかり考えている。
そんな自分にも嫌気がさした。
「ああ、もう…」
河川敷の小さな空き地に車を滑り込ませて、河原に降り立つ。
死んだ人は星になるなんて小さいころ母親が言ったが、見上げた夜空は星がなかった。
「徹…俺はどうしたらいいんだろうな…生きていく意味がわかんねぇんだ。死ぬことも許されないのに。」
そういえば今日は、死んだバンドメンバー…徹の命日だった。
あの日…金はなかったけど夢があった。
今は…
スーツが汚れるのも構わず河原にうずくまりながら、佐倉は声を殺して泣いた。
そのとき…
水音に紛れて、微かな…でも確かな「呼ぶ」声がした。
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