救出劇

2/8
前へ
/110ページ
次へ
それは、微かな鳴き声だった。 蚊が鳴くよりも更に微かで、消え入りそうな呼び声。 佐倉は立ち上がり、辺りを見回した。 草むらの中にはなにもいない。 水辺にも魚以外の影は見当たらなかった。 まさか魚が話すわけでもないし…。 諦めて再び腰を下ろした佐倉の目の前。 川の真ん中にある橋のらんかんに、段ボールが引っ掛かっていた。 段ボールは半分沈みそうになりながら、橋に引っ掛かっている。 いつもなら気にも止めないただのゴミだが、蓋に施された厳重すぎるガムテープと、それを引っ掻いてこじあけた痕跡。 その痕跡があきらかに、小さないきものによるものだということに、違和感を感じた。 「……おい!そこにいるのか?」 たかが動物が、返事をする訳がないとわかっていながら、思わず声をかけていた。 返事の代わりに、なにかが身動ぎをした。その反動で段ボールが沈んだ瞬間。 佐倉は服のまま、川に飛び込んでいた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加