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僕らを包む壁という壁から、じんわりと水が染みだしてきた。
このままでは、段ボールごとぼくら沈んでしまう。
それなりに防水性があったって、陸地にたどり着くまでたかが紙がもつわけないし、
本当に陸地たどり着くかもわからない。
「なにやってんだよ、早く蓋あけなきゃ」
兄弟がばりばりと天井をひっかいた。それに釣られて僕も立ち上がって天井に爪を立てる。
濡れてもいない段ボールは固い。爪が折れそうだ。
「爪が折れてまう…」
「爪が折れんのと死ぬのと、どっちがいいわけ?」
兄弟がイライラした様子でぼくを睨み付けた。
「それは……うわっ」
二人が片側に寄った瞬間、段ボールのバランスが崩れ逆さまになった。
つまり、いままで天井だった場所が床に。
床だった場所が天井になった。
水はどんどん溢れてきている。
兄弟は躍起になって、天井をかきむしった。
小さな穴があいて、その向こうに太陽が見える。
ばりばりと乱暴に天井を引き裂いて、兄弟がやっとその蓋を開いた。
「どう、すんの」
遥か彼方に見える岸を睨み付ける兄弟に声をかける。
兄弟は、震えながら縁を掴んで立ち上がった。
「飛びうつる…しか、ないじゃん。こっち寄るなよ、ひっくり返ったらおわりだからな」
「う、うん…」
…風が強くなってきた。波も高くなってきた。
運命は僕らを味方する気はないみたいだ。
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