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未来が約束されてしまったサラリーマンほど退屈なものはないだろう。
オフィスを見回した佐倉涼は、ひとつため息をついた。
「俺、今日はあがります。」
肩まで伸ばした長髪を掻きながら、一応の上司に声をかける。
時間は5時ジャスト。今日も定時退社だ。
「お疲れ様。」
他の社員や上司はまだ仕事が残っている。文句のひとつも言われそうなものだが、誰も佐倉に何も言わない。
今は自分が上司でも、いつか佐倉が上司になる。それがわかっているからだ。
いつも真っ黒なスーツに真っ黒な髪。後頭部で一つくくりにしたそれをゆっくりとほどく。
そう、将来は約束されている。
この大企業で、退屈だが一番大きな椅子にすわれるのは、佐倉だけ。
…佐倉は所謂、社長の息子だった。
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