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…一応、佐倉にだって夢はあった。バンドで成功するだとか、野球選手になるだとか。
野球選手はともかく、バンドの方は持ち前の端正な顔立ちもあり、夢をつかみかけていたのだ。
バンドメンバーが事故で死んでしまった。それでもやれるつもりだった。
死んでしまったからこそ、いつか一緒にみた夢を叶えたかった。
その日まで喪服のままで居ようと黒を決め込んだ。
CDだって用意できた。
あと少しであいつの夢は叶えられたんだ。
でもその夢はある日、見たこともない「父」によってかきけされてしまった…。
(くだらねぇこと思いだしちまったな…)
セブンスターに火をつけながら、タイムカードを切る。
無駄に広い社内の無意味に狭い廊下をうつむき加減で足早に通りすぎた。
ただ早く、地下にある車庫へ。
こんなばかでかい檻から早く抜け出したい。
思いはそればかりだった。
目を閉じれば今でもリアルに思い出せる。佐倉が捕らわれた日。
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