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佐倉は母親と二人きりで、アパートに暮らしていた。
部活はやらずにバイトとバンド。なんとか母親を助けささえあって生きてきた。
生まれた時から父親はいなかった。そういうものだと思っていた。
いつものバイトから終わって帰ってきたら、初老の男が母親と話していた。
「涼を…連れていかないでください…あの子は私の子供です!」
気丈に振る舞う母に、男は札束を投げつけた。
「仕方ないだろう。跡取りがいないんだ。金なら払ってやる。今までの養育費…お前だって本家の離れに世話してやろう」
ああ…
「これ」が父親か。
母が泣き出した。涼は立ち尽くしていた。
「涼には夢があるんです!それを、奪わないで下さい!」
「何が夢だ!ワシの後に、会社の社長にしてやろうって言うんだ、有難いと思え!」
……つまり…。
認知すらしなかった父親は、大企業の社長だった。
本家の息子に後を継がそうとしたが、そいつが死んでしまった。
このままでは会社が誰かにのっとられてしまう。
それを危惧して目をつけたのが…18年前に孕ませて捨てた、涼の母親だった。つまり、涼のことだ。
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