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「……そうだ。 ここから遥か南のとある古城でみつけて、抜いた」
「へぇ、その紅い刀身、紅蓮の聖剣かぁ……」
そう呟くと、ユリアはむぅ、と俯き、何か考え込み始めた。 それを見て、壱夏はハッと何かに気づき、ユリアの目を見据える。
「なるほどな……お前の狙いは聖剣ってわけだ……。 こいつを狙ってくる野郎は山ほどいたからな……」
そう言うと壱夏は刀を強く握り、眼に殺気を込め、棘ある視線の切っ先を、ユリアに向ける。 だがユリアは余裕綽々といった様子で、また屈託のない笑顔に戻った。
「おっ、正解だよ。 半分ね。 安心して、君から聖剣奪うなんてことはしないから。 うん、しない。 私は聖剣自体は目的じゃないからね。 そんなものあっても、狙われるだけ」
「何……?」
どういうことだ? 壱夏は眉をひそめ、ユリアを見つめる。 刀を持つ手は緩めない。
「私が欲しいのは、聖剣の力だけ……つまり君に頼み事がしたいの」
壱夏の目から、殺気が削がれた。 ユリアは笑ってはいるが、その目は真剣そのものだったからだ。 本当に多分、ユリアに聖剣を奪う気はないのだろう。
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