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「きいてくれる?」
ユリアは壱夏の顔を覗き込み、上目遣いで、懇願するように見つめる。 その純粋な表情に、一瞬考え込むふりをする壱夏だが、すぐにコートを翻し、背を向ける。
「悪いな……俺にはやることがあるんだ。 他をあたってくれ」
壱夏は刀を掲げると、轟々と溢れ出す炎の中に刀を収め、手を離す。 すると刀は炎とともに燃え尽き、消滅した。 それを確認すると、壱夏はそのまま魔物の巣があると思われる方向へ、ゆっくりと歩き出した。
だがユリアも、負けじと小走りでその後ろについて行く。
「ちょっと待ってよ! 人を救うのが聖剣を抜いた者の宿命なんじゃないの!? 壱夏!」
「いきなり呼び捨てか……悪いがこれから魔物の巣に乗り込むんだ。 危ないぜ」
「魔物の巣? 何で……近くの村もそれほど被害は受けてないし、巣に近付かなければ襲ってこないような穏和なのなのに……」
横から顔を覗こうとするユリアを目敏く思ったのか、壱夏は早歩きをしてユリアの前にでる。
「……それも聖剣を抜いた者の宿命なんだよ。 お前よりも重要な」
「そんな……」
それ以上、巣に着くまで壱夏は口を開かなかった。
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