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姿を現したのは、壱夏の身長ほどある、刀だった。 刀身は紅く輝いて、僅かに炎を纏っていて、どこか幻想的な所があった。
壱夏はそれを軽く構え、切っ先を魔物の方へ向ける。
「さあ、来いよ」
ニィ、と口の端を吊り上げ、魔物を睨む壱夏の、その目には何か威圧感のようなものが感じられ、思わず怯んでしまうような何かがあった。
だが化け物は何の躊躇もなく、考えもなく、恐怖もなく、前足二本を、普通では知覚できないような速さで、壱夏に突き刺さんと伸ばす。 壱夏も、躊躇いなく、恐怖もなく、迷いもなく、化け物に向かい、走った。
魔物の前足は壱夏の肩に突き刺さり、ブシッと音をたて、黒いコートが赤く染まった。 しかし壱夏は表情も変えず、刀でその前足を斬り落とし、懐に潜り込む。
「紅蓮の炎よ……焼き尽くせ」
壱夏の言葉に応えるように、刀から炎が溢れ出し、ゆらゆらと燃える。 壱夏はそれを化け物の腹に突き刺した。
すると傷口から化け物に着火し、体は炎で焦がされていく。
「グォォォォォ!」
化け物はあまりの苦痛に悲鳴を上げ、逃げるように、壱夏に背を向けるように、走っていく。
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