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突然のさよなら
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―――2008年 秋
早く顔を見たくて。
早く話がしたくて。
一分でも一秒でも一緒に居たくて。
土砂降りの雨の中走ってきたあたしは、息を切らしたまま大切にしている合い鍵を鍵穴に勢いよく差し込んだ。
鍵と一緒に付けられたキーホルダーが、嬉しそうに音をたてる。
やっと会える。
大好きな人に。
「ただいま!!走って来ちゃったよ」
ドアを開けると同時に大きな声で叫んだ。
冷たくなりはじめた風が頬を赤く染め、ジンジンと痛い。
「新(あらた)?あれ?いないの?」
ドアを閉めてすぐ、異変に気がついた。
見開いた瞳に飛び込んできたのは、ガランとした何もない空間だった。
冷蔵庫もベッドも洗濯機も、つい最近まで当たり前にそこにあった全てのものが跡形もなくなくなっている。
「新……?」
あたしは肩で息をしながら、もう一度呟いてみる。
けれど、目の前の現実は変わらない。
無くなったものたちは当然のように現れてはくれない。
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