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「じゃあ…もしかして。」
おれは静かにニャン美を見た。
ニャン美もおぼつかない瞳でおれを見ていた。
一瞬
時が止まったかのように思えた。
おれにはその一瞬が6時間ぐらいに思えた。
「くそ…くそ…。だめだ思い出せない。」
おれは自分を憎んだ。切り取られた記憶が戻ってこない。
ニャン美は泣き出しそうな表情でおれの手を握った。
「タカシ。これ。」
そう言ってニャン美が差し出したのは、煮干しだった。
ズキン
それを見た瞬間、おれの体が疼いた。
(なんだ?なんなんだ?この気持ち…。)
「何十年、何百年経っても、あたしの気持ちわ…煮干しみたいに変わらないょ。」
ニャン美は静かにそう言った。
…………
ズキーン
おれの目に自然と涙が溢れてきた。
そうだ……その煮干し…この公園…この匂い…この夕焼け…そしてこの…セリフ。
おれはニャン美の目をじっと見つめた。
「……タマコ。」
──完──
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