第3章 小夜館の人々

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一通り客側の自己紹介が終わると、 由香オーナーが、ハッとしたように口を開いた。 由香「小町ちゃんは?」 ドラム缶女はおもっきり忘れ去られた。 由香「どのみち、もうそろそろ吹雪いてくる頃だし、 中に呼んできてくれる?」 と、由香オーナーは夏子ちゃんに指示をした。 やがて全身雪まみれになった小町ちゃんが入ってきて、「死ぬかと思いました~」などと笑いながら言った。 旅館従業員側は、私達の紹介は要らないでしょうなどと言っていたが、 結局、客のみんなに押されて自己紹介をすることになった。 まず、由香オーナーが咳払いをすると、口を開いた。 由香「では、まず当館へお越し頂いてありがとうございます。 私がオーナーの由香です。」 と、口上が始まり長々とこの館の歴史について語り始めた。 やはり明治に建てられた洋館らしく、 小夜館というのは最初の館の持ち主が「小夜」という名前の女性だったからだそうだ。 なにか曰く付きな部分も密かに期待はしたが、 この館では過去に誰も変死なんてしていないとのこと。 夏子さんのは客にホラーな雰囲気を楽しませるための嘘で 実は呪われているものやら曰く付きのモノなんてのは館には何一つないんだそうだ。 ああ・・良かった・・ やっぱりただの商業的なものか~・・ 最後に、「こんな、変わった館ですが、みなさん、楽しんで下さいね」などと皮肉めいた口調で由香オーナーが言うと 周りから笑いがこぼれた。 呪い話は全部、嘘だと聞くと、なんだか この館も楽しくなってきた。 私と理子以外のお客は、「そんなのわかってるよ」といった顔をしていたが 私たちはおもっきり信じて本気にしていたのである。 ああ・・ 本当に良かった・・ 私は心から 由香オーナーの話に安堵した。
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