傾いた世界の隠し方

6/13
前へ
/73ページ
次へ
黒ブチ眼鏡の、 ぼさぼさ髪の、 噂のあいつだった。 一ノ瀬零(いちのせれい) 「えっ」 向こうも私の声に反応して、声を出していた。 そして彼は本の山を抱え、机に向かい、私も面白がって彼の後ろについて机に向かうと隣に座った。 彼は本を目の前に広げ、静かに読み始めた。長い間、沈黙がつづく。噂通り無口なやつだ。 女の子にモテないのもわかる。 せっかく女の子がいるんだから、気をつかって話でもかけてよ、って思う。 そして私は長い沈黙にたえられなくて口を開いた。 「ねぇ、名前教えてよ」 名前は知っていたけど、自己紹介のようなものをかわしておかなきゃ、他人のままで終わってしまうし、なにしろ彼を名前で呼べないからだ。 すると彼は 「・・・知りたいの?」 と、人を馬鹿にしたように言った。 長い前髪をたらしたまま言う。 「知りたいから、聞いたんだよ」 そういうと奴は 「知りたいなら、自分で調べればいいじゃん」 そう言い放って、読んでいた本のページをめくった。 本を見るばかりで私の方へ顔を向けない。 ひねくれたやつ。 本能的に思った。 私、こいつ、嫌い。  
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1489人が本棚に入れています
本棚に追加