幸せの足音

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  生まれつき体の弱い彼女は産まれてこのかた、家の外に出た事がない。   それは、一年中寒いこの国の気候もあるが、何より彼女の家は貧しく、ちゃんとした治療が行えずにいる彼女の体には辛いものだったから。   彼女の両親は必死に働き彼女の薬を買ってきてくれる。   しかし、彼女の世界は両親と歳をとった先生だけ。 毎日遅くまで働く両親に感謝しながらも、寂しく思っていた。      今日は聖夜。彼女の部屋の窓から見える街並みは、どこか楽しげに見える。   外から漏れ聞こえる子供達の明るい声が耳に痛い。   両親は居ない。家には彼女一人だけ。 孤独感に押し潰されそうな憂鬱な気持ちになりながらも、母が用意してくれた夕食を食べた。      深夜。彼女は外から聞こえる妙な音に目を覚ました。 リズミカルに鳴る鈴の音が無音の部屋に少しずつ大きくなりながら入ってくる。    不審に思った彼女はそっとカーテンを開いた。   そこには、赤い服を着たお爺さんがトナカイの引くソリに乗っている。   言葉の出ない彼女にサンタは、年季の入った白い髭を擦りながら近付いた。   「君に幸せを運んで来たよ」     その言葉が彼女にとって忘れ難い聖夜の始まりだった。  
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