5人が本棚に入れています
本棚に追加
その光景が目に焼き付いたまま離れない。
アイツが最後に言った言葉が耳から離れない。
「俺と、お前は二つで一つだ。だから、俺は……お前の心に帰るよ。
きっと、きっとそこが、俺の居場所だから」
苦しいくせに、辛いくせに体を引き摺りながらアイツは私に口付けた。
アイツは暴力を受けていた。
親戚から、お前は恥だ何だと貶されても、アイツは耐えた。
でも味方はいない。
両親でさえアイツを精神がおかしいと遠ざけた。
私が何を言っても、双子の兄に犯されたショックで不安定になっていると言われて聞いてはくれなかった。
アイツはずっと耐えた。
だけど、親戚が私とアイツを交換しようとしていたのを聞いてそれを止めようとした。
だけど、聞く耳など持ってもらえる筈もなく、ただ私を助けようと、ただ私の事を考えて自殺した。
両親に電話して、手紙を書いて、そして包丁を体に突き刺した。
私が来る事は考えてなかったらしい。
最初で最後のすれ違いだった。
アイツの体に残った痕や手紙で親戚は捕まったけど、私の心は晴れなかった。
耐えられなかった。
この世に、アイツの居ない人生に。
だから、アイツの傍に居たくて、アイツの隣で笑い合いたくて。
そっちに行こうと、お腹に包丁を突き立てた。
うっすらとしか見えない視界でアイツがゆっくりと私の傍で笑いかけてきた気がした。
「俺は寂しくなんかないよ。ずっとお前と居たくて、それが叶わないこの世界が辛かったのに、今は一緒に居れるからな。
だから、頑張れ。
出来れば、俺の事、忘れないで。それで俺は十分だから」
恥ずかしそうに言ったアイツを見た後、急に視界が晴れて、私は包丁を持ったまま立っていた。
助けられた? それとも夢?
でも、どちらでも良かった。
ついさっきまで合った、心の隙間がふさがった気がするから。
最初のコメントを投稿しよう!