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こんなやり取りが暫く続いたら堪らない、とばかりにヤマトが多紀のケータイを取り上げ、替わった。
「多紀で遊ぶのは誠に結構ですが、何か?」
ヤマトのセリフに多紀は仰け反り、「フォローなしかよ」、と拗ねた。
『身も蓋もない言い方だネ~。ヤマト、元気?』
「オレの記憶によれば、今朝お会いした筈ですが」
『相変わらずのクールビューティっぷり、ありがとお』
そうして、二言三言、ヤマトは声の主と会話を交わすと、
「わかりました…」
と、電話を切る。地面に「の」の字を書いて拗ねている多紀にケータイを返し、
「行くぞ」
と、一言残し、さっさと歩き出した。
こねまま置いてきぼりに晒される危険を感じ、多紀は慌ててヤマトの後を追った。
自分たちが住まうマンションの最上階に、『彼』の部屋はあった。
エレベーターに乗り、ヤマトは最上階を指し示すボタンを押す。
閉まりそうになる扉に滑り込んだ多紀は、息を切らした。
(コイツに優しさを求めちゃ、いかん…)
それは、ヤマトと初めて会った時から、続いている教訓だ。
クラスメイトからも、「クールビューティ」と称されるヤマトは、校内一の氷の帝王でもある。
白皙の美貌に怜悧さが加わり、一見人を近寄らせない雰囲気を醸し出している。
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