数奇な日曜日

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 近年、宝石や絵画、貴金属の盗難が頻発している。驚くことに、それら百件以上の事件は、全て同一の単独犯によるものだった。  何故そうだと分かるのかというと、簡単なことで、防犯カメラに映っていた犯人が一人しかいなかったからだ。  当然のごとく、警察は一斉蜂起している。全国レベルで捜査網が敷かれ、大きな美術館や宝石店の警備は急速に強化された。  しかし、犯人はことごとくセキュリティを破り、警察の追跡から2分と掛からずに逃れていた。  昼間のワイドショーや雑誌では「怪盗、またもや参上!」とか、「現代に蘇ったアルセーヌルパン!」と、まるで英雄のように取り上げられている。  盗まれた品は多岐にわたり、全てが公開されていたわけではなかったが、いくつかは画像付きで説明されていた。  一ヶ月前には有名な画家が描いたらしい人物画。一週間前にはピジョンアイという珍しいルビー。一昨日には世界に二つしかない人形の一つ…。  ソファに深く座り、居間でぼんやりとテレビを見ていたが、昼間のニュースはどこも先日の盗難事件で持ち切りだった。まあ、殺人事件でないだけマシだ。 「また盗んだのね…」  隣に座る母がため息混じりに呟いた。私は黙って首肯する。 「どんな人なのかしら」 「ただの犯罪者でしょ」  きっぱり言い切ったことが気に入らなかったのか、母は片方の眉を吊り上げて、肘で私を小突いた。 「あなたねぇ、もうちょっとロマンを持った方がいいわよ?最近、妙にさばさばしてるじゃない」  意味が分からなかったが、つまり感受性を豊かにしろということだろう。 「十分でしょ。物だって大切にしてるし」 「集めてる人形のこと?やぁよ。ミッキーとかキティならともかく、なんか西洋風な物ばかりじゃない。夜、動き出しそうだもの」 「動かないってば」  私の部屋には24体の人形がある。一体を除いて全てフランス人形だ。レトロだし、中世をイメージしているだけあって、どれも気品がある。いい趣味だと思うのだが、今のところ、理解してくれる人はいない。  いいよ。趣味なんて、結局は自己満足だし。 「じゃあ、私はお人形の相手をしてこようっと」  嫌みのつもりだったが、母は首を振ってしかめっ面をしていた。 「散歩、ちゃんと行きなさいよ。たまには生き物の相手をしたらどうなの?」  逆にカウンターをされてしまった。
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