数奇な日曜日

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 部屋の人形を見渡す。本棚、机、サイドボードやベッド…どんな家具にも最低一体は人形が乗っている。  一番手近にあった、赤いドレスをまとった人形を手に取る。ほとんど毎日ブラシをかけているので、細やかな金髪はさらさらと心地いい。  ドレスがシルクで出来ているので、少々値は張る。しかし、この上品な手触り、ガラスの青い瞳の透明感が堪らない。1ヶ月のバイト代を費やしただけはあった。  23体の人形のうち、一番高いものは10万円ほどする。それはガラスケースに入れて、サイドボードの中央に据えていた。フランスの販売サイトから購入した物だ。  ガラスケースをさすり、中で座り込んでいる人形を見つめる。  吸い込まれそうな青い瞳、頬に絶妙な起伏を生み出している微笑み、うっとりするほどきめ細やかな黄金色の髪、白いシルクの生地で織りなされ、繊細な刺繍が施されたドレス。 「どうしてわかんないのかなー。綺麗なのにね?」  最初は世間に対する非難だったが、次の台詞は目の前の優雅な少女に充てたものだった。  カリカリカリカリ…  ドアから変な音が聞こえる。そう考えると同時にドアを開けていた。  案の定、部屋に飛び込んできたのはヤコブだった。 「そんなに遊びたいの?」  ドアを閉めて、部屋の中央でくるくると回っているヤコブを見下ろす。  この部屋でストレスを発散されても困るので、面倒だったが決心した。  ドアのノブを回し、開けて待ったのだが、ヤコブは鼻の頭を人形に押し付けて動かない。  それがフランス人形なら、目も当てられない怒りを爆発させるところだが、ヤコブの悪戯に遭っているのは、先週父が買ってきた黒猫の人形だった。  酒臭い父に近付きたくなかったが、人形を買ってきたという文句に釣られた。  その時渡されたのが、あの安っぽそうな黒猫人形で、直後、後悔が胸に渦巻いた。  まあ、嫌いではない。毛並みの仕上がりは悪くないし、何より目が赤い。赤い眼をした猫というのは、なかなか洒落ていると思う。  父は露天商を開いていた男にあれこれと口説かれて、つまり口車に乗せられて買ってしまったそうだ。全く、意志が弱い。 「ヤコブ。行かないならつまみ出すよ」  言葉を理解したわけではないだろうが、ヤコブはあっさり鼻を離し、とことこと私の足と壁の間をすり抜けていった。  サイドボードの端に居座る黒猫を少し見やって、ドアを閉じた。
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