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散歩のコースは決まっていた。母はちょくちょく変えているらしいが、出不精の私には道程を変化させるなどという珍妙なことは出来ない。
団地を抜けて、大きな公園を一周し、来た道を戻る。途中でヤコブが遊びたがったらロープを外し、広場を走らせる。
人間のジョギングだって、コースはあまり変わらない。犬だからという理由は傲慢だ。犬の考えていることを理解するなんて、人間には高等すぎる芸当だ。宇宙人と会話するようなものだぞ?
「未知との遭遇では、コミュニケーションが取れてたっけ。じゃあ、出来るのかはぁぁ~…」
独り言の途中で欠伸が出た。
暖かな昼下がりの公園のベンチ、そういうシチュエーションになると、どうしても私は欠伸ばかりしてしまう。脳に酸素が回っていないのだろう、きっと。
10メートルほど先で、ヤコブが駆け回っている。時折、飛び跳ねたりもしている。
楽しそうだ。いや、見ているこっちが楽しいのか…
いっか、どっちでも…
背もたれに寄りかかって空を見上げる。
空は青い。わざわざ宇宙に出かけなくても、空が青いことは知れている。
そういえば、ヤコブを飼い始めたのは父の意見が切っ掛けなのだ。
中学に上がっても毎日人形と遊んでいた私を、両親は心配していた。小さい頃から、人形遊びしかしていなかったのだ。
そんな私を見かねたのか、父はこんなことを言った。
「何かペットを飼えば、一生懸命世話をするんじゃないか?」
その一声のどこに説得力があるのか理解不能だが、両親はコリー犬の子供を私に買い与えた。
しかし、私の生活サイクルに餌やりと散歩が増えただけで、何にもならなかった。
元々、心配されるほど人形に依存していたわけではない。友達はいるし、オシャレにだって気を配るようになっている。
それを理解してくれたのか、ようやく両親は心配を止めた。
黒猫の人形はいらなかったが…
「ま、たまには趣向に変化を付けなきゃにはぁぁ~…」
大きな欠伸。人は少ないから、構わないだろう。
人の眼をここまで気にするなんて…
自分の変化に薄く微笑んだとき、芝生を駆け回っていたヤコブが、急に進路を一点に定めて走り出した。
たまには大きく回りたいのかと目で追っていると、どうやらそうでないらしいことに気付く。
「ヤコブ!駄目!」
ベンチから腰を上げて、私も駆け出した。
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