数奇な日曜日

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 ヤコブは、昼の休憩のためにトラックから出てきたアイスクリーム屋の店員に飛びついていた。  ピンクの制服を着ている男性店員は突然のことに驚いている。 「ヤコブ!カム!」  大声を上げると、ヤコブは迅速な動きで戻ってきた。叱られることを予期している。 「すみません。人見知りなので、繋がなくても大丈夫かなと思ったんです…」  恥ずかしさのあまり、しきりに頭を下げる。 「いい。気にしないでくれ」  若い男性店員は帽子を深くかぶり直し、笑顔を浮かべた。  不機嫌ではないとわかり、安堵の息を小さく吐く。 「ここにはいつもいらっしゃるんですか?」  店員の制服と同じカラーリングのトラックを見上げて尋ねる。 「うん。休日は家族連れが多いからね。アイスクリームを無くして、ピクニックは語れないさ」  ポケットに手を突っ込んで、店員は微笑と共に言う。  彼の冗談はちょっと面白かった。 「あの…。アイスを一つ、買ってもいいですか?」  腰を低くして聞くと、彼は大げさな仕草で肩をすくめた。 「お客様は神様なんだ。まして、君みたいに十二使徒の一人を連れているなら、なおさらだ」」 「よくご存知ですね」  店員はトラックのコンテナに乗り、私はコンテナの側面にあるカウンタの前に回った。 「さあ、何にしましょうか?」  にこやかな応対に促されて、カウンタの上方に設置されているメニューからバニラのシングルを選んだ。  店員は手際よくコーンに白い球体を乗せ、一分以内に手渡してくる。  200円と高かったが、躊躇せず500円玉を手渡した。  お釣りで三枚の硬貨を手渡される。全て鈍い光を放つ100円玉。  お礼を言い、ヤコブの非礼を再度謝ってから、店を離れようとした。 「あ、ちょっといい?」  振り返ると、店員がコンテナから出てきて、右手を差し出してきた。手の平は空を向いて、その中央には、先程手渡された物とは違う色が煌めいていた。 「えっと、それは…?」 「玩具の金貨。はは、そう身構えないでよ」  特に何も考えず、店員から金貨を受け取る。こういう行動は、普段の私からすれば珍しい。  その金貨は、玩具にしては重量があった。 「ありがとうございます」  両手で金貨を包み込み、頭を下げた。  踵を返し、ヤコブを連れて帰る。 「またのお越しをお待ちしております」  頭を下げている店員に手を振って、私は公園から出た。
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