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遠い昔の話をしよう。
海を渡った男の話を。
決して大きくはないが、多くの人々が暮らしていた港町。
そこに、愛し合う2人の男女がいた。
彼らはお互いを深く愛し合っていた。
そんな二人はある、町に広がっていた噂を聞いた。
近々、海賊がこの港町に攻めてくると……。
多くの者が、攻められる前に討ってしまおうと考えた。
男もその一人だった。
女は止めたが、男は「守りたいモノがある」と、大きな船と共に海へ出た。
海に出て何日も経ったが、海賊船など全くいなかった。
漁師の漁船や、大きな商業船とすれちがうだけだった。
やがて、男の乗る船は、小さな島に碇(イカリ)を降ろした。
積んでいた食糧や真水が、底を着いたのだ。
小さな島の小さな街。
そこは、海図には記されていなかった。
不思議に思う者もいたが、街の人々は皆、彼らを快く迎え、親切にしてくれたので、その疑問を忘れていった。
彼らは数日を、その街で過ごした。
男の乗る船が祖国に帰る時、男は村長の娘に呼び止められた。
その娘は、男に恋心を抱いていた。
娘は男に「ここに残らない?」と尋ねたが、男は首を横に振った。
「愛する人が待っている」と。
娘は淋しそうな表情を浮かべ、「さよなら」と別れを告げた。
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