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家に帰ると母が俺に罵声を浴びせた。
「もう!いつまで遊んでるつもり?」
俺は少し不思議に思った。帰宅時間が10時を過ぎることは今に始まったわけではないのに。
「ちゃんと10時前にゲーセンから出たよ」
俺がムキになって答えると母は
「そうじゃないわよ!もう3年なんだからいつまでも遊んでないで早く受験勉強にとりかかりなさい!第一、志望校は決めてあるの?」
すると俺は
「うっせーな、これから考えるって」
と突き刺すようにいい、自分の部屋に入った。
部屋に入ると俺は鞄を床に投げ出し、制服姿のままベッドに寝転び、天井をまっすぐ見ながら考えた。
俺にだって夢はある。同級生の市瀬えりさと幸せな家庭を築くことだ。俺は入学した時からずっと彼女のことが好きだった。しかし、まともに会話したことはごくわずかである。普段から俺は市瀬はおろか同じクラスの女子とはあまり話さないのである。いつも純一郎と雅伸と3人でつるんでいた。おそらく彼女にしてみたら俺はただの同級生でしかないだろう。いつかアドレス交換したいと思っていたが、気付いたら2年以上たってしまっていて、いまだにチャンスがつかめずにいる。この現状では、結婚はおろか友達になることすら遠い夢だ。
なぜ人は将来の夢は?と聞かれると大抵プロ野球選手、看護士と言ったように、職業で答えるのだろうか?俺はそれが不思議で仕方なかった。もちろん、大人になったら働かなければいけないことは分かっているけど、仕事なんて俺にしてみれば生活するための手段にすぎない。俺は市瀬と生きていけるならどんな職業でもいい。とにかく、市瀬と幸せになること、それが俺の夢だ。しかし、いざ将来の夢は?と聞かれたらそう答えられない。笑われることは火を見るより明らかだからだ。ましてや、俺が市瀬を好きなことはいつも一緒にいる純一郎と雅伸さえ知らない。というか話せない。市瀬はガッキー似のすごく可愛い娘だから、誰もが俺にはハードルが高すぎると思うだろう。
今の俺にとっては高校卒業後の進路より、いかにして市瀬と仲良くなるかが重要な課題なのだ。
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