3/6
前へ
/24ページ
次へ
彼はしばらく興味深そうに若者を観察していたが、そのうち何か思い当たったように、ニッと唇を歪めると徐に口を開いた。 「ミッドガルド王国第一王子――フェルナンド・クラン」 はっとしたように若者が一歩後ずさった。 無意識のうちに差し出された手と距離を置く。 なぜこの男が知っているのだろうか。 フェルナンドが今この地下牢に勾留されていることは、誰にも――少なくともこの国の人間には――知らされていないはずだった。 さらに混乱する若者の様子を黙って見つめていた青年は、少し間を置くと、先程とは打って変わって人懐っこい笑みを向ける。 「そんなに警戒すんなって。別にお前の敵ってわけじゃねえ。むしろ味方だぜ? お前をここから逃がしてやろうってんだからな」 その場にそぐわない軽い口調。 開口一番出てきた意味の分からない言葉に、フェルナンドはひそめた眉を更に寄せ上げた。 「……ま、嫌なら別にいいんだけどよ。ここでおとなしく処刑されて死ぬもよし、俺と一緒に来るもよし。全部お前の自由だ」 「味方……?」 フェルナンドは疑わしげに青年を見据えた。 「冗談も休み休み言えよ。そんなこと簡単に信じられるわけないだろ。第一、俺はあんたが誰なのかすら知らないんだぞ」 その言葉に、青年は一瞬間驚いたように目を見開いた。 「――ああ。あいつら何にも教えてねえのか。ま、当然か……」 ぽつりと小声で何か意味深な言葉を口にしたかと思うと、青年はわずかに瞳を曇らせた。 だがそれもほんの一瞬のことで、フェルナンドがその微妙な変化に気付くことはなかった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加