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彼はしばらく興味深そうに若者を観察していたが、そのうち何か思い当たったように、ニッと唇を歪めると徐に口を開いた。
「ミッドガルド王国第一王子――フェルナンド・クラン」
はっとしたように若者が一歩後ずさった。
無意識のうちに差し出された手と距離を置く。
なぜこの男が知っているのだろうか。
フェルナンドが今この地下牢に勾留されていることは、誰にも――少なくともこの国の人間には――知らされていないはずだった。
さらに混乱する若者の様子を黙って見つめていた青年は、少し間を置くと、先程とは打って変わって人懐っこい笑みを向ける。
「そんなに警戒すんなって。別にお前の敵ってわけじゃねえ。むしろ味方だぜ? お前をここから逃がしてやろうってんだからな」
その場にそぐわない軽い口調。
開口一番出てきた意味の分からない言葉に、フェルナンドはひそめた眉を更に寄せ上げた。
「……ま、嫌なら別にいいんだけどよ。ここでおとなしく処刑されて死ぬもよし、俺と一緒に来るもよし。全部お前の自由だ」
「味方……?」
フェルナンドは疑わしげに青年を見据えた。
「冗談も休み休み言えよ。そんなこと簡単に信じられるわけないだろ。第一、俺はあんたが誰なのかすら知らないんだぞ」
その言葉に、青年は一瞬間驚いたように目を見開いた。
「――ああ。あいつら何にも教えてねえのか。ま、当然か……」
ぽつりと小声で何か意味深な言葉を口にしたかと思うと、青年はわずかに瞳を曇らせた。
だがそれもほんの一瞬のことで、フェルナンドがその微妙な変化に気付くことはなかった。
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