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視線の先には、柏木がいた。
柏木が大切にしている自転車が無惨な姿で横たわっていた。
「ちょっと待って」
柏木は佐和子の手を引いた。
佐和子はただ驚いて、柏木を見上げた。
「としさん?」
柏木も佐和子を見つめた。
「今日、さわこに会わないようにしてた」
「え?」
「仕事だったのは本当。だけど、さわこが帰りそうな時間に、二次会が終わる頃にあそこに行ったんだ」
佐和子は頷くしかなかった。
「でも、本当はちょっと期待してた。傷つけたくせに、期待した。さわこがまだいればいいって」
柏木は佐和子をぐっと引き寄せ、さっきよりも強く抱き締めた。
「俺、ずるいこと言っていい?」
柏木の腕の中で、佐和子は頷いた。
「やっぱり一緒にいよっか?ずっと、ずっと」
佐和子は何度も頷きながら、またぐちゃぐちゃになるくらい泣いた。
柏木はケラケラいつものように笑いながら、佐和子の頭を優しく撫でていた。
「あっ!」
声をあげて泣いていたさわこが突然、柏木の腕を離れた。
「さわこ?」
「としさん!自転車っ!」
柏木は腹を抱えて笑った。
笑いながら柏木は幸せを実感していた。
彼女だけはずっとずっと変わらない
幸せにしたい
そう思った。
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