2月

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「ねぇー!?シコン!休憩だってー!!」 緑が生い茂る森の中でエミュの透き通る美しい声が木霊する。 その声は、まるで天使の讃歌の様。 「…にしても暑いわいな。」 現在、部屋にあった小さなカレンダーで数えると二月。 ここが日本だったなら、鼻水を垂らしながら、インフルエンザに脅える日常を送っていたはずだ。 あの日のやっちゃんと追いかけっこした地獄のクリスマスから約二ヶ月。 連れて来られた先は、青い海と緑が茂る常夏のリゾート島。 森の真ん中にあるサンタの屋敷。 俺達は、新しい環境や生活、仕事などに戸惑いつつも何とか慣れてきた。 今日の仕事も何時もと変わらず、トナカイ小屋の掃除。 しかし、人は、日々進化するもの。 初めてこの仕事を任された頃は、半日以上かかっていたが今では、二時間ちょいで終わらすことが出来る。 あの事件以来、トナカイとは、鉢合わせしていない。 きっと、フクロウのオッサンが色々と時間をずらしているのだろう。 因みに幾ら掃除が早くたって、午後は、紅茶を片手に日向ぼっこしている訳じゃない。 最近の新しい仕事は、世界中から送られてくる莫大な感謝の手紙や品物を各サンタに配ったり、本人に変わって差出人に返事の手紙を書いたりもする。 これがまた、馬鹿みてえに数が多いから大変なんだな…。 「お疲れ様です。ミスターシコン、今日は、ワイルドストロベリーの紅茶とクラッカーを用意しました。どうぞお召し上がり下さい。」 このグループの専属給仕、キュヴェがスカートの裾を摘んで軽く会釈する。 キュヴェに渡された冷たいお絞りで顔を拭きながら席につく。
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