序章

1/7
前へ
/297ページ
次へ

序章

雨が降っていた。 煉瓦作りの家屋が建ち並ぶ中、地面も同じように煉瓦作りだった。 雨はこれから夕方にかけて降り続けるらしい。 朝の天気予報では晴れだと言っていたのに、今となってはこう言っているんだから、天気予報もいい加減だな、と雪月は思った。 せっかく2人で何処かへ出かけようとしていたのに、雪月は天気に阻害されてしまっていたのである。 2階の窓を開け、雪月は手を伸ばした。 結構な早さで手が濡れる。 「せっかく、晴れるって聞いたから急いで来たのに、天気に嫌われてるのかな?」 手を伸ばしたまま、後ろで椅子に腰掛けている女性に首だけ向けて聞いた。 とても綺麗な女性だった。 腰辺りまで延びる綺麗な黒髪に整った顔立ち、道行く人の視線を魅力する雰囲気を持った女性である。 「仕方ないわよ、お天気は誰にも左右出来ないわ。 雪月だって、人に意見されるのが嫌いなんでしょう? それと同じよ。 それに、もし天気に嫌われているのだとしたら、それは私の方――」 綺麗な女性、黒川絵里はそう言って、描きかけのキャンバスに視線を戻し、また筆を手に取った。 この部屋の中を描いた風景画だった。 木目の床に無機質な真っ白な壁。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加