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序章
雨が降っていた。
煉瓦作りの家屋が建ち並ぶ中、地面も同じように煉瓦作りだった。
雨はこれから夕方にかけて降り続けるらしい。
朝の天気予報では晴れだと言っていたのに、今となってはこう言っているんだから、天気予報もいい加減だな、と雪月は思った。
せっかく2人で何処かへ出かけようとしていたのに、雪月は天気に阻害されてしまっていたのである。
2階の窓を開け、雪月は手を伸ばした。
結構な早さで手が濡れる。
「せっかく、晴れるって聞いたから急いで来たのに、天気に嫌われてるのかな?」
手を伸ばしたまま、後ろで椅子に腰掛けている女性に首だけ向けて聞いた。
とても綺麗な女性だった。
腰辺りまで延びる綺麗な黒髪に整った顔立ち、道行く人の視線を魅力する雰囲気を持った女性である。
「仕方ないわよ、お天気は誰にも左右出来ないわ。
雪月だって、人に意見されるのが嫌いなんでしょう?
それと同じよ。
それに、もし天気に嫌われているのだとしたら、それは私の方――」
綺麗な女性、黒川絵里はそう言って、描きかけのキャンバスに視線を戻し、また筆を手に取った。
この部屋の中を描いた風景画だった。
木目の床に無機質な真っ白な壁。
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