序章

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こんな簡素な部屋の中に、絵里は今まで自分が描き上げた絵画を飾っていた。 だから、今描いている絵は、自分が今までに描いた絵のミニチュアも描いている事になる。 「ほら、愚痴を言っているんなら早く窓を閉めて、キャンバスが湿っちゃうわ」 あ……ああ、ごめん。 雪月はそう言って慌てて窓を閉める。 「たまには良いじゃない、雨も。 雨が降らなきゃ、皆生きていられない。 だから、たまの雨も風情と感じられるようにならなきゃ。 私達の都合だけで降るな、とは言えないわ」 絵里は、とてもおしとやかな女性だと思う。 見た目と声、喋り方のハーモニーがばっちりなのだ。 そして絵里の美しさは、無性愛である雪月をも虜にしたのである。 「退屈なんだったら、私が雪月を一枚描いて上げようか? 外が雨なら仕方ないでしょ」 「えっ、良いの?」 「ええ。 そういえば、雪月の絵は未だに描いて上げた事なかったでしょ。 だからこの良い機会に」 絵里は可愛らしく笑ってくれた。 その顔を見て、雪月は思わず胸を踊らせる。 絵里が自分の絵を描いてくれる、雪月にはこれが嬉しくてたまらなかった。 「じゃ、じゃあオレ、ヴァイオリン弾くよ。
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