序章

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昔、王侯貴族は人物を描く時、モデルが退屈しないように音楽家を呼んだんだ。 絵里、知らないの?」 雪月は急いで自分の愛用のヴァイオリン。 ブラック・ノワールを取り出した。 黒壇で製作された、雪月の為だけに母が特注してくれたヴァイオリン。 価格はそれなりに張ったが、それでもストラディ・ヴァリウスには遠く及んでいない。 それでも、雪月はこのヴァイオリンを、ストラディ・ヴァリウスにもひけを取らない一品だと思っている。 「クス、やっぱり雪月はそれがお気に入りなのね。 ――あと、本来楽曲は音楽家が演奏するものであって、モデルが演奏するものじゃないわ。 雪月はそこ間違ってる」 絵里は軽くそっぽを向いたが、直ぐに立ち上がって新しいキャンバスを取りに動いた。 雪月はヴァイオリンと弓を取る。 「解ってる。 でも、モデルがヴァイオリンを弾くのも面白いと思わない? ヴァイオリンを弾いてるオレを描いてよ。 絵里の為にいつもと違わぬ名演奏をしてみせるからさ。 やっぱり絵里、ルネサンス芸術に詳しいね」 「当たり前でしょ。 その頃からこっちに居るんだから。 それに、あっちには芸術なんてなかったから、こっちが凄く愉しい。
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