34人が本棚に入れています
本棚に追加
雪月は私に虜になっちゃったけど、私は芸術の虜。
雪月はヴァイオリン、私は絵画」
真っ白な無地のキャンバスを携え、絵里はまた椅子に戻った。
鉛筆を手に取り、軽く寸法を描く。
「聞くけど、今日はいったい何を演奏してくれるのかしら?」
絵里が、これから見る夢を待つように、頬杖をつきながら雪月に聞いてきた。
雪月は若干考えた後。
「じゃあ、今回は“エドワード=エルガー”のホ短調、82番をピアノがいないから無伴奏で演奏しようか。
このオレ、雪月のヴァイオリン、ソロ演奏をお楽しみ下さい」
軽く一礼。
またさっきいた窓際に立って、ヴァイオリンの弦に弓を当てた。
ヴァイオリンから音が出る。
絵里とは違って、聞いた者を魅力する幻想的な澄んだ旋律。
「やっぱり、雪月のヴァイオリンに対する才能は凄いわね。
私の絵が霞んで見えちゃう」
雪月は目を閉じたまま、ヴァイオリンを弾きながら会話する。
「オレのは、才能なんてものじゃないよ。
十年近く弾いてたら、これくらいは出来るようになる。
ここから先に行けるかどうかが、天才かどうかの分かれ道」
絵里はゆっくりとキャンバスに鉛筆で下書きを描き込んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!