序章

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雪月は私に虜になっちゃったけど、私は芸術の虜。 雪月はヴァイオリン、私は絵画」 真っ白な無地のキャンバスを携え、絵里はまた椅子に戻った。 鉛筆を手に取り、軽く寸法を描く。 「聞くけど、今日はいったい何を演奏してくれるのかしら?」 絵里が、これから見る夢を待つように、頬杖をつきながら雪月に聞いてきた。 雪月は若干考えた後。 「じゃあ、今回は“エドワード=エルガー”のホ短調、82番をピアノがいないから無伴奏で演奏しようか。 このオレ、雪月のヴァイオリン、ソロ演奏をお楽しみ下さい」 軽く一礼。 またさっきいた窓際に立って、ヴァイオリンの弦に弓を当てた。 ヴァイオリンから音が出る。 絵里とは違って、聞いた者を魅力する幻想的な澄んだ旋律。 「やっぱり、雪月のヴァイオリンに対する才能は凄いわね。 私の絵が霞んで見えちゃう」 雪月は目を閉じたまま、ヴァイオリンを弾きながら会話する。 「オレのは、才能なんてものじゃないよ。 十年近く弾いてたら、これくらいは出来るようになる。 ここから先に行けるかどうかが、天才かどうかの分かれ道」 絵里はゆっくりとキャンバスに鉛筆で下書きを描き込んでいった。
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