序章

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シャッ、シャッとスケッチする音。 ヴァイオリンの奏でる旋律の音。 外で豪雨が降りしきる音。 変わったトリオだ、と雪月は苦笑する。 「見事なトリオね」 絵里は、雪月が考えていた事を悟ったように、言った。 「トリオになってるか? オレの演奏に雑音が入ってるだけだぜ」 「あら、雪月が心中で思った感想に私も合わせただけよ。 でも、こんな音が全て音楽になるのだとしたら、トリオじゃ収まらないわね。 ソロ(独奏)、デュオ(二重奏)、トリオ(三重奏)、カルテット(四重奏)、クインテット(五重奏)、セクステット(六重奏)、セプテット(七重奏)、オクテット(八重奏)、ノネット(九重奏)、デクテット(十重奏)。 ざらにはこのくらいあるけど、世界全てを音楽にしたらいったい何重奏なのかしら?」 「不可能命題だな。 誰にも証明出来ない」 目を開いて、雪月が答える。 不可能命題とは、誰にも証明出来ない。 つまり、答えがない事とイコールであり、イコールではない。 「――いきなり話を変えるようで悪いけど、最近家族とは会ってるの? 以前、お父さんとは決別したままなの?」 ぐ……、と雪月の顔の動きが変わる。
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