序章

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ヴァイオリンの演奏には現れなかったが、その微妙な表情の変化は絵里には感じ取れた。 「会ってないのね……。 いつまでそうお互いを嫌い続けるの? 雪月のお母さんだって、お姉さんも心配しているでしょう?」 「まあ、母さんは心配してるみたいだったけど。 姉さんは心配してなかったよ。 それどころか、笑ってたよ。 しかし、姉さんと最後に会ったのは1年前だけどね」 父親の話をするのは嫌そうだったのに、母親と姉に関しては、楽しそうに話してくれる。 絵里は、雪月の身内に直接会った事はない。 いつも当人の口から聞かされる程度だ。 「母さんは、心配性だから。 姉さんは、はっきり言って馬鹿だね。 頭が悪いって意味の馬鹿じゃなくて、性格が――」 本当に楽しそうに話してくれる。 母親と姉とはこんなにも仲が良いのに、どうして父親とだけ離反しているのだろうか。 聞きたくても、絵里には聞く事が出来なかった。 「たまには姿見せて上げなさいよ」 「あの馬鹿親父以外ならばいつでも。 でも、しばらくはこのイタリアにいるよ。 料理は美味しいし、絵里もいるし、日本より犯罪が多いから仕事に困らないし」 「最後のは、理由じゃなかったわね……」
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