哀愁の-Orion-

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俺たちが訪れた海辺のキャンプ場には冷たい風と静かな波の音が響いていた。 「…何してるの?」 後ろからかけられた声に、俺は少々驚きながら振り向く。 そこには彼女が立っていた。 「…望遠鏡が置いてあったからさ…。星を見てた。」 俺は使っていた望遠鏡の縁をさすりながら彼女にそう説明した。 「…そうなんだ。意外とロマンチストなんだね。」 彼女はまるで珍しいものを見るかのような目で俺を見ながらそう言った。 「そんなことない。って言うか、何でお前はここにいるんだ?」 そう言いながら、さっと俺は腕時計を確認した。 時刻は午前1時過ぎ。 他校の生徒達は既に、坂を下った場所にある広場のテントで寝静まっている。 「別に?でも何でここで見てるの?」 彼女に言われてから俺はハッとした。 俺達の立っている場所は高い木々が多く立ち並び、とてもじゃないが天体観測に向いている場所ではなかった。 「…見るんだったら海に行こうよ。海のキャンプ場なんだから。」 彼女が俺の袖を引いた。 「この望遠鏡、誰のか分かんないんだ。持ち出すわけにはいかないだろ?」 俺はそう言いながら再びレンズを覗いた。 「見えるの?」 彼女が俺に近づく。 「一応な。覗いてみるか?」 俺は体をどかすと、彼女に場所を譲った。
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