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彼女は頷くと、身をかがめて望遠鏡のレンズを覗いた。
「見えないよ…?真っ黒。」
「もっと目を離して。真っ直ぐレンズを見てみ。」
俺は夢中でレンズを覗き込む彼女の華奢な肩を見ながら言った。
言われたとおりに彼女がレンズを再び覗く。
「…!あ!見えた!」
レンズを覗きながら彼女が微笑んだ。
「…すごい…縦に星が三つ…。きれいに並んでるよ?」
茂みに隠された狭い空を見上げ、そこに映る星に彼女ははしゃいだ。
「…あれはオリオン座。ほんとはもっと大きく空に広がってんだけどな。」
「でもキレイ…。宝石みたい…。」
宝石…。まるで子供のような表現だ。
俺は少し苦笑した。
「…知ってるか?オリオンって人の名前なんだ。」
俺が少し得意げに言うと、彼女はレンズから目をはずしてこちらを見た。
彼女の白い息が舞う。
「…神話に出てくるんだよ。オリオンは有能な狩人だったんだけど、乱暴な狩りに腹を立てた大地の神様がサソリを使ってオリオンを殺したんだ。」
「そうなの?」
彼女が少し暗い顔になったのが月明かりに照らされてわかる。
「…あぁ。それでそれを哀れに思った女神様がオリオンとサソリを星座にしたっていう神話さ。」
「…へぇ。詳しいね。」
彼女が微笑む。
「知ってるか?明け方サソリ座が空に上ってくるとオリオン座は逃げるように地平線に沈むんだ。」
彼女は悲しそうな顔をして、
「星になってまでもサソリから逃げるなんてかわいそうだね…。」
と、少しだけうつむいた。
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