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俺たちは何気ない会話を交わしながら、女子寮の前までたどり着いた。
彼女が立ち止まる。
「…ありがとう。」
俯いたまま彼女がそう言った。
「…あぁ。じゃあまたな。」
俺はそう言うと、後ろを振り向かずに歩き始めた。
その時だ。
不意に後ろから彼女が俺の制服の袖を引いた。
「…結局…、何も言わなかったね。オーストラリアに引っ越すこと…。どうして?私が泣くとでも思った…?」
俺は彼女の震えた声に、手に持った荷物を積もった雪の中に落とした。
「…。」
「…ズルいよ。北海道に行くって決めたときも…今回の事も…。全部ひとりで抱えて…、私には一言も言ってくれない。」
彼女が背中に抱きつき、静かにすすり泣く。
「…私の事…そんなに嫌い…?」
その言葉に俺は振り返る。
「違うよ…。」
俺は弱々しくそう言うと、無意識にそっと彼女を抱きしめた。
「…ごめん…。」
俺は自分の無力さを彼女に詫び、自分のしたことを今一度思い返した。
彼女が俺のオーストラリア行きを知っていることを悟っておきながら自分からは何も言わなかった。
それは、俺がいつも独りで生きてきたと勘違いをしていたからだ。
実際は言わなかったのではなく、言えなかったんだ。今までそばにつき、俺を支えてくれていた彼女に残酷な別れを突きつけることが出来なかった。
俺は今も昔も意気地なしだ。
それが最も残酷だと言うのに…。
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