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「あの……私、少しここから離れようと思います」
僕の思いを余所(よそ)に、唐突に彼女は言った。
「例えどんな最期を迎えることになろうとも、死ぬ前にせめて、一篇でもいい、納得出来る詩を書きたいんです。きっとそうじゃなきゃ私は死に切れない」
勿論まだ死ぬと決まったわけじゃない。それは彼女も承知の上だろう。
僕らは桜の前で出会った。二人を結び付けたのは桜だけど、二人を繋げたのは彼女の詩だった。
だから彼女がここを離れて――僕の傍からいなくなってでも詩を書きたいというのなら、それで詩が書けるのなら、引きとめることなんて出来やしない。
「どれくらい時間が掛かるのか解りません。その間に貴方は私を忘れるかも知れない。私への想いは失われているかも知れない。それでも……もしも同じ気持ちで私を想い続けていてくれたなら、また会ってくれますか」
「……必ず。約束します」
次の日からあの公園で彼女を見ることはなかった。
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